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海洋冒険小説の家

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(2)京都奉行・村井長門守

    (2)

 仕方なく長門守は酒盃を受け取って、飲んだ。
 「それで、盗賊どもの生き残りは何処へ?」
 「さあ、それは助左衛門殿にお尋ねくだされ」
 権大納言は助左衛門の方をチラと見て、軽くウインクした。
 「初めてお目にかかる。荒木助左衛門にござる」
 長門守は声のした方を見て、慌てて、
 「京都奉行・村井長門守でござる。助左衛門殿については、安土の菅屋九右衛門殿より書状があり、海賊どものことについて、指示を受けよとの事でござった。これから如何いたしたものか」
 「そうですな、海賊らは桂川に舟を用意しているものと思われます。この舟で川を下り、恐らくは尼崎か、兵庫の港に出て、きゃつらの船に乗り換えるのではないかと思いますが」
 「それでは、いまから手配したのでは遅い?と」
 「それは分かりませんが、堺にいる九鬼水軍の戦船に早馬で知らせては如何ですやろ。ひょっとして間に合うかもしれませんな。黒旗の海賊の大頭目の、六条の院さえ取り押さえれば、毛利の水軍など、何ほどのこともありません」
 「そうであれば、ここでぐずぐずしているわけにはいかぬ。早速、手配せねば。それではこれで」
 権大納言に挨拶して早々に帰って行った。
 「これから手配して、六条の院はつかまるかいな?」
 権大納言が助左衛門に聞く。
 「まあ、無理でっしゃろな。安土や京を堂々と歩き回っていて、織田の奉行衆は誰も気がつかんのに、あの広い海の上では到底無理ですわ。また、いつの日かどこかの海で戦うことになるでしょうが、今度こそは、奴の息の根をとめてやりたいものです」
 「しかし、なかなかの大物ぶりやったなあ。体はでかいし、声もでかい。そやけど、懐良親王(かねながしんのう)の末裔にしては品が少々足らんかったように思うけど、どうや?」
 他の公家たちも、
 「そうや、そうや」
 同調の声を上げる。
 「やっぱり、口からでまかせやったんや。当分の間、いい酒の肴になるなあ。はっはっはっは」
 権大納言はいかにも楽しげで、先ほどまで、ここで海賊たちと戦っていたとは思えないほど、落ち着いている。本当に公家というものは、ヘンな連中である。
 「それでは、そろそろ失礼致します。今日は色々とお世話になりました。さあ、みんな、帰ろうか!」
 堺の衆は権大納言と公家衆に礼を言い、宿に引き上げた。
                (続く)




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